聖書の読み方「ネブカデネザルの大きな木の夢・王の頌栄」(聖書の考古学)

ダニエル書4章は聖書の中で特異な章です。聖書の中で唯一「異邦人」(ユダヤ民族以外の者)が一人称(私・・・)でユダヤの神を褒め称えることば(頌栄)が記されています。しかも、その人物とはこともあろうに、新バビロン王国最強の王、ネブカデネザル王。

この章では聖書のバビロン史との接点より、歴史書としての聖書の性格について見ていきたいと思います。

ダニエル書4章のあらまし

(口語訳聖書4章1節〜37節 / 聖書協会共同訳 3章31節〜4章34節)(聖書協会共同訳聖書ではラングトンのヴルガータの章分けを引き継いだビブリア・ヘブライカ・スツッツガルテンシアのマソラ本文の章分けに従っている)

1.王の宣言(1-3)
2.王の木の夢(4-18)
・・・夢の話 (4-5)
・・・夢の解き明かしを求める(6-9)
・・・夢の詳述(10-17)
・・・解き明かしを求める(18)
3.夢の解き明かし(19-27)
・・・夢の再述(19-23)
・・・夢の解釈(24-27)
4.予言の成就(28-33)
5.王の復権と頌栄(34-37)

ダニエル書4章はネブカデネザル王はその王国の全ての人に宣言をするところから始まります。彼は(ダニエルの)神が人間が築く王国の上に君臨することを示された大いなる出来事の経験を語りました。短い自己紹介と神への賛美から始まり(4:1-3)、臣下に、平和と繁栄の人生の中で大きな不安を引き起こす夢を見た、バビロン中の賢者たちがその意味を解き明かすことが出来なかったが、ダニエルが解いてくれたことを述べています(4:4-8)。その夢の中で彼は、強大で多くの実を結び、空の鳥や地の獣が宿り、避難場所とし、食物を得て、天にまで届く枝を有する大きな木を見ました。そこに聖なる見張りの者たちが天から下り、その木を株のみ残して切り倒します。その切り株は草を食らう獣となって「七つの時」の間人里を離れて彷徨います。この木、そして獣はネブカデネザル王の事だとダニエルは解き、神さまの主権を認めるよう王を促しますが、結局警告を無視したネブカデネザル王は預言通りの目に会います。その経験を通して神様の主権を思い知らされたネブカデネザル王の、神さまに対する讃美を記したのがダニエル書4章です。

イシュタル門

下にベルリンのペルガモン博物館に再構築されたバビロンにあったイシタール門の写真を示します。タイルなどの材料はバビロンの跡、現在のイラクの現場から1930年代にベルリンに移され再構築されたものです。

Robert Koldeweyにより1930年代に発掘された現場(1932年写真)。Wikipediaより
イシュタル門(ペルガモン博物館、ドイツ)
(By Rictor Norton 出典:ウィキメディア・コモンズ (Wikimedia Commons))

ネブカデネザル王の碑文

イシュタル門に記されたネブカデネザル王の建造に関する碑文
(by Gryffindor 出典:ウィキメディア・コモンズ (Wikimedia Commons))

イシュタル門の銘文は青いうわぐすりをかけられたレンガに白いアッカド語の楔形文字で書かれ、ネブカデネザルが門の目的を説明するために献上されました。碑文は門の建築と同時期、紀元前605-562年頃に作られました。その文面;

Nebuchadnezzar, King of Babylon, the pious prince appointed by the will of Marduk, the highest priestly prince, beloved of Nabu, of prudent deliberation, who has learnt to embrace wisdom, who fathomed Their (Marduk and Nabu) godly being and pays reverence to their Majesty, the untiring Governor, who always has at heart the care of the cult of Esagila and Ezida and is constantly concerned with the well being of Babylon and Borsippa, the wise, the humble, the caretaker of Esagila and Ezida, the first born son of Nabopolassar, the King of Babylon, am I.

ネブカデネザル、バビロンの王、敬虔なる王子、マードックのご意志により任命された最も高位の神官なる王子、ナブに愛される者、思慮深く、知恵を信奉することを学んだ者、神々(マードックとナーブー)の存在を計り知りその威光に崇敬の念を抱き、疲れることのない為政者、常に心の中心にエサギラとエジダへの崇拝への心遣いをいだき、常にバビロンとボルシッパの安泰を心遣い、賢明で謙虚な、エサギラとエジダの番人、ナボボラッサーの長男、バビロンの王、それが私だ。

Both gate entrances of the (city walls) Imgur-Ellil and Nemetti-Ellil following the filling of the street from Babylon had become increasingly lower. (Therefore,) I pulled down these gates and laid their foundations at the water table with asphalt and bricks and had them made of bricks with blue stone on which wonderful bulls and dragons were depicted. I covered their roofs by laying majestic cedars lengthwise over them. I fixed doors of cedar wood adorned with bronze at all the gate openings. I placed wild bulls and ferocious dragons in the gateways and thus adorned them with luxurious splendor so that Mankind might gaze on them in wonder.

(’街の城壁の)両方の門の入り口であり、バビロンの道の並びに沿った、イムガー・エリルとネメッティー・エリルは益々低くなっていた(埋没していた)。(それゆえ)私はこれらの門を取り壊しそれらの基礎を地下水面にアスファルトとレンガをもって造り、素晴らしい雄牛や龍が描かれている青い石を含んだレンガで作らせた。私はその屋根を壮大な杉を縦に並べて覆わせた。私は青銅で飾った杉の門扉を修復した。私は野生の雄牛と凶暴な龍たちを出入り口に配置し、人々が彼らを眺め驚嘆するよう、彼らを贅沢な光輝で装わせた。

I let the temple of Esiskursiskur, the highest festival house of Marduk, the lord of the gods, a place of joy and jubilation for the major and minor deities, be built firm like a mountain in the precinct of Babylon of asphalt and fired bricks.

私は、神々の神であるマードックの最も高尚な祭りの家であり、大小の神々にとって喜びと歓喜の場所であるエシスカーシスカーの寺をバビロンの領内にある山のようにアスファルトと火で焼いたレンガでしっかり建てさせた。

(上記英文はWikipediaより、Marzahn, Joachim (1981). Babylon und das Neujahrsfest. Berlin: Berlin : Vorderasiatisches Museum. pp. 29–30. 和訳はこれよりの私訳)

何故、ネブカデネザル王がこのような目に合わされたのでしょうか?

ダニエル書4章29-30節をみると『十二か月を経て後、王がバビロンの王宮の屋上を歩いていたとき、王は自ら言った、「この大いなるバビロンは、わたしの大いなる力をもって建てた王城であって、わが威光を輝かすものではないか」。』(口語訳)とありますが、ネブカデネザルのこの自慢はアシュタル門の碑文の冒頭を彷彿とさせます。ユダヤの神はこの高慢で他の神々を崇めるネブカデネザルを諌められ、人の世で如何に栄華と権力を誇っている者でも、神様の下の「見張りの者」(ダニエル書4:17)の決定によりその位を剥奪され獣のような状態にされてしまうことを示されたのです。神の主権を示されたのです。

この出来事のユダヤ人にとっての意義

この出来事はユダヤ人にとって大きな励みとなったに違いありません。ネブカデネザル王が自ら宣言したユダヤの神への讃美を聞けたわけですから。

この出来事の私たちにとっての意義

そして、これは2千5百年隔てて私たちにとっても神様が人間の歴史の中に関与された「事例」を示し神様の働き方を考えさせる上で意義深い聖書の記述ではないでしょうか。

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